nature and tech.

地球平和の前に家庭平和の前に自分平和

地引網で残った小魚400kg超を「魚醤」にしている話

今年の7月はじめ、ネイティブの夫は小学生の時から毎年地引網をやっていたそうですが、私はここ浜田海岸で初めて地引網を体験した。

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もともと漁村だったこの地区も今は週末の観光漁業だけが残されている。普段は農家のおじさんたちがこの日は漁師に。丸太の下駄をいくつも運び並べ、船を男たちが押し海へ漕ぎ出す。腰より高い波に体をぶつけて船に乗り込む姿が勇ましかった。炎天下、浜にトラクターを走らせて楽しそうなおじさんたちに、村の新たな一面を見た。

表浜(おもてはま・渥美半島の太平洋側)の中でも、浜田の網はかなり大きいらしく、漁獲量が多いと聞く。日本昔ばなしにもある通り、このあたりは昔から海の恵みが豊富なのだ。

nihon.syoukoukai.com

この夏は朝早起きして海に入ったり、一人で散歩することも、家族でデイキャンプすることも多く、海との関係が変わってきている。漁師のおじさんに声をかけると「あんた海でゴミひろっとったら(でしょ)」とか「泳いでたら!」と言われ、そういう海に関わる人との関係も含めて。田原市は両側を海に囲まれているけれど、移住者の私からすると意外にも地元の若者で海に遊びにいく人は多くはないのだが、一方で毎朝海をチェックしにくる、という習慣のあるおじさんはも一定数いるのも事実。(不思議とおばさんはほとんどいない。やはり狩猟は男のサガか。)

 

さて、いざ網が上がると、大漁大漁!!カマス、アジ、イワシ、サバ、ちいさいタイやサメ。

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この5年間、”農耕狩猟採取民族”であるお義父さんのおかげで私もだいぶ魚の顔と名前が一致するように。また、その調理法なども、東京暮らしでは身につかなかっただろう知識がついたのも、義親と毎日夕食を共にしているからだろう。ちなみに小魚は丸ごとオイル煮か、片栗粉で唐揚げなどして、我が家ではいただいている(内臓そのままでも)。とはいえ、冷凍保管できる量には限界があるし、冷凍ってそのうち質が悪くなる。そこで、10cmにもならないような小魚たちで「魚醤(ぎょしょう)」を仕込もうと考えていた。タイ料理やベトナム料理などでおなじみの調味料「ナンプラー」だ。我が家では市販のものを買っていて、炒め物など、うま味調味料として活躍している。

今回の地引網でも参加した200人ほどがほしいだけの魚を各家庭に持ち帰っても、まだ山のように小魚が残る。網にかかった魚たちは泳ぐ力がもうないため、人間が海へ流しても、また岸へ打ち戻される運命。鳥が食べても食べきれない。

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ブルーシートの上で力がなくなった小魚の山を前に、夫が「全部持って帰ろう!」と言い出す。当初は20リッターのバケツ一杯分は魚醤にしようか~という予定だったのであまりに「全部」は想定外だったが、結局うちから大きな樽を3つずつジムニーに積んで3往復。夫はこの海で網元をやっていたというご先祖が憑依したかのように夢中になっていた。

 

急遽発足したフードロスプロジェクトに手を貸してくれる人も出てきて、もうやり切るしかないと私も覚悟。地引網がひと段落したらホームセンターに走り、あるだけの漬物樽と重石と粗塩を購入。結局夕方から夜にかけ、友人家族に手伝ってもらい、魚を洗い、水を切り、20パーセントの塩で漬け、結果、400kg超を樽にして14個。

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参考にした『発酵の技法』によると、 

魚醤はすべての調味料の母

2000年前には古代ローマで最も好まれていた調味料だった。

らしい。

魚醤は基本的には液化した魚であり、魚の細胞は、科学の専門書に自己分解や加水分解として記述される酵素の消化作用によって、固体から液体へと変化する。

(中略)小型の海水魚や軟体動物、あるいは甲殻類をはらわた(内臓)ごと使う。「魚の淡白質加水分解を行う酵素は、主に内臓に存在する」とKeith Steinkrausは報告している。『Journal of Agricultural and Food Chemistry』でタイの魚醤ナンプラーの製造を調査していた研究者のチームによれば、魚は塩をする前に24時間から48時間、室温に放置される。「これによって実際に発酵プロセスが始まる」。

次に、塩を加えてよくかき混ぜ、均一に行き渡らせる。十分に塩をすることは、魚を急速な腐敗や、C.botulinumを含む危険なバクテリアの増殖から保護するために重要だ。大部分の現在のスタイルの魚醤には、(重量比で)25%以上の割合で塩が含まれる(中略)『 International Handbook of Foodborne Pathogens』では、室温で「水溶液フェーズ」にある魚のボツリヌス中毒のリスクは10%の塩で十分に防止できるとされている。 

発酵の技法 ―世界の発酵食品と発酵文化の探求 (Make:Japan Books)

発酵の技法 ―世界の発酵食品と発酵文化の探求 (Make:Japan Books)

 

この村にある長仙寺の中には高崎のご先祖の名が刻まれた「魚鱗塔」もある。魚の供養のために昔の村人たちが建てたものだ。数年前に発見したが、蔦に飲み込まれ、今にも忘れられそうな存在を、夫はなにかと気にしていた。魚醤を仕込んでから初めて、10月末に、蔦をはらい、仏僧の友人に一緒に来てもらい、手を合わせることができた。

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一度関わった命は最後まで面倒を見る。拾ったキジも、一度飼うと言った犬も、同じこと。(って桃太郎みたい)一度関わったいのちを放るのができないここ最近。人間が手を出したことによって、この世界のいのちのバランスが少しづつ変わる。別にそれでも人間よりよっぽど多い菌や他の生命体が利用して、結果宇宙はまたバランスがとれるようになっているのか、人間はあがくべきなのか、それはわからない。uecologyも同じなのだが、人間がどこまで行為すべきかという命題がまたここにも。

 

地引網の企画者でもある近所のMちゃんと夏以降、魚醤をかき混ぜたり、塩を足したり、様子を見てきたのだが、週末についに味見。旨味がすごい!お湯とパクチーいれるだけでよし。状態としてはまだ全てが液化しているわけではないのでもう少しこのままにしておく。

 

つづく‥

 

 

( 写真:浜田海岸 地引網 高崎俊喜/壽命殿 長仙寺 魚鱗塔 本保 慶